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最高裁判所第一小法廷 平成6年(オ)260号 判決 1994年7月14日

大阪市東成区東中本三丁目四番二一号

上告人

シンワ産業株式会社

右代表者代表取締役

鈴木亘

右訴訟代理人弁護士

上杉一美

大阪市東成区大今里南一丁目八番二一号

被上告人

八尾キーパー株式会社

右代表者代表取締役

中井健

右訴訟代理人弁護士

露口佳彦

右当事者間の大阪高等裁判所平成四年(ネ)第二三八八号意匠権侵害差止等請求事件ついて、同裁判所が平成五年一〇月二八日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人上杉一美の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 三好達 裁判官 小野幹雄 裁判官 大白勝 裁判官 高橋久子)

(平成六年(オ)第二六〇号 上告人 シンワ産業株式会社)

上告代理人上杉一美の上告理由

原判決は、類似意匠の効力の及ぶ範囲を定めた意匠法一〇条二項の解釈を違背し、また、包装用襟枠の看者(取引業者)に適応される経験法則を著しく誤って結論を導き出したものであるから、破棄を免れないのである。

以下において、まず、包装用襟枠の沿革およびそれに関する意匠権の推移、上告人製品と本件登録意匠とがこれらの有する共通点を陵駕する差異を有していることを主張する。

第一 包装用襟枠の変遷およびそれに関する意匠権の推移

一 包装用襟枠(以下、襟枠という)は、ワイシャツ等の襟の内側に装着するものであり、その目的は襟の保形であるから、その上下幅は襟の高さくらい、横長は襟の内周に係止孔部分を加えたくらいであり、その形状は薄い帯板状である。

二 襟枠の形状は、当初真っ直ぐであったが、次に言わばブーメラン状になり、その後ブーメラン状の下部に本件の突出片が設けられることとなった。

ブーメラン状になったのは、襟枠をワイシャツ等に密着させるためであり、また、その下部に突出片を設けたのは搬送中に襟枠がワイシャツの襟部分から浮き上がってしまうことを防止するためである。

襟枠の形状の大まかな変遷は右のとおりであり、この変遷は、いずれも襟枠の機能を全うすべくなされたものであり、美観を向上させるためになされたものではない。

三 襟枠の意匠権の推移

イ 乙第一号証の意匠が昭和四二年六月三日出願されたところ、被上告人は二年近く後の昭和四四年四月一日乙第四号証の意匠を出願した。

襟枠の意匠権を出願する場合の図面は、ワイシャツ等に装着し得る状態のものを正面図とするのが通常であるが、乙第四号証の正面図はかような状態のものとは理解することができない。

ロ 係止孔の数を増加した襟枠の意匠を昭和五〇年八月二九日出願したところ(乙第二号証)、被上告人は二年後の昭和五二年五月一六日係止孔を増加した乙第七号証の意匠を出願した。

ハ 乙第三号証の意匠が昭和五二年一月一八日出願されたところ、被上告人は四か月後の五月一六日乙第八号証の意匠を出願した。

ニ 上告人が本件類似の突出片の形成された襟枠を昭和五五年一月一九日ころから製造販売していたところ、被上告人は同年一二月九日甲第二号証の意匠を出願した。

ホ 襟枠の主要メーカーは五社くらいであり、上告人・被上告人のシェヤーは国内供給量の五〇%くらいを占めており、情報は伝播し易い。

ヘ 襟枠の意匠権の推移は、右のとおりであり、この推移は当業者の有している意匠に対する認識を理解する上で重要な意味を持つものである。

さらに、右の推移もまた、美観向上のためではなく機能面を充足させるためになされてきたものであることを看過してはならない。

ト 看者は、右の意匠権の推移を熟知しており、機能を重視して襟枠を購入しているものであり、美観を拠り所とすることなく、襟枠を手に取りワイシャツ等に密着するかどうかを考えて選択しているものである。

したがって、襟枠が他の襟枠と類似しているか否か、換言すれば、誤認混同を起こすかどうかを決するには、襟枠の細部にまで差異があるか否かを検討しなければ、正鵠を得た結論を導くことができないのである。

第二 上告人製品と本件登録意匠との差異

原判決は二二ないし二四頁において、上告人製品と本件登録意匠との差異を摘示したものの、これらの差異は共通点を陵駕すべき差異ではないと判断したが、以下のとおり意匠法一〇条二項の解釈を誤り、また、経験法則を著しく逸脱した判断をなしたものである。

一 上告人製品が、左右突出片4の中間の切り込みの形状を、本件登録意匠の直線に代えて傾斜勾配の高い山形としている点につき、原判決は、直線状のものでなくキノコ状のように広がりを持っている形状も、本件登録意匠の類似の範囲とされており、その中間形態である傾斜勾配の高い山形状のものも、本件登録意匠の類似の範囲と認められると判示したが、登録意匠として認められているのはキノコ状のものであって本件の傾斜勾配の高い山形状のものではない。

右判示は、意匠法一〇条二項の規定する類似登録の類似を認めてはならないとする定めに違背したものである。

二 上告人製品が、係止を<省略>字状に代えて長孔状としている点につき、原判決は、意匠の類否判断にとって、決定的な部分ではないと判示したが、この決定的な部分ではないとの表現が如何なる意味を持つのか、全く不明確であって、あたかも、<省略>字状の意匠の類似として長孔状のものを認めたかの如くであり、この点は前記と同じく意匠法一〇条二項の規定する類似登録の類似を認めてはならないとする定めに違背したものと同じである。

三 上告人製品が、傾斜面2の中央部に、谷形の切り込みを有する点につき原判決は、はたして看者の目に止まるか疑問の余地が無いわけではないと判示したが、前述のとおり、看者はシャツ屋・ボタン屋(取引業者)であって上告人製品を手にとって細部まで見て購入するものであるから、この谷形の切り込みを見落とすはずがないのであって、右判示は経験法則を著しく逸脱した判断である。

四 以上のとおり、原判決は、意匠法一〇条二項の解釈を違背したものであり、また、経験法則を著しく逸脱した判断をしているものであって、これらが判決に影響を及ぼすことは明らかである。

以上

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